植生の回復について

大規模な土砂採取による自然破壊と日本最大規模の産業廃棄物の不法投棄で傷ついた豊島・水ヶ浦は、1934年、日本初の国立公園である瀬戸内海国立公園の一部に指定された区域でした。

維持・回復すべき豊島の代表的植物

維持・回復すべき豊島の代表的植物

この破壊された水ヶ浦の自然を1934年当時の植生に近づけることを目標として、豊島の人びとと瀬戸内オリーブ基金は、国立公園の原状回復事業として「豊島・ゆたかなふるさと100年プロジェクト」を実施しています。
専門家の調査・指導のもと、企業ボランティアや地元の小中学校の協力を得ながら、環境教育の実践の場としても活用されています。

豊島の植生回復と生物多様性について

嶋  一徹(しま かずとう)

岡山大学学術研究院環境生命自然科学領域

 公害調停条項の前文には「豊島が瀬戸内海国立公園という美しい自然の中でこれに相応しい姿を現すことを切望する」と明記されており、島の人々は廃棄物の搬出処理だけでなく、自然の景観についても原状回復を強く願っています。

 豊島を含む瀬戸内一帯は温暖な気候であり、伐採などの撹乱が100年以上なければ、シイ·カシ類などの照葉樹が優占する森林が形成されると言われており、その面影は檀(壇)山頂上付近に残されたスダジイ林に見ることができます。

 しかし、これは例外的な存在であり、瀬戸内沿岸の大部分は、古くから薪炭林や落葉採取の場として人々の生活を支え、穏やかな撹乱を受けながら植生が維持されてきました。これを「代償植生」と呼び、豊島ではアカマツやコナラ、ウバメガシが上層を優占し、その下層にはツツジ類やヒサカキ、シャシャンボなどの低木類が繁茂しています。そして、このような植生が豊島の人々の記憶にある取り戻したい自然景観ではないでしょうか。

 では現状はどうでしょうか? 柚(ゆ)の浜北側、つまり水ヶ浦側の処分地から南東に山の稜線を越えた地は、1970年頃から山腹が切削されつつ表土が採取し尽くされたあと、40年以上も放置されています。一見すると緑が回復しているように見えます。

 しかし、調査すると種の多様性は極めて低く、植生遷移もほとんど進んでいない実態が明らかになりました。周囲の斜面に分布しているコナラ、ヤマザクラなどの高木性樹種や、早春を彩るコバノミツバツツジもほとんど分布していません。このことは産廃処理跡地を放置しても多様性豊かな元の自然景観は戻ってこないことを示唆しています。

 では、どうすればよいでしょうか。われわれが行うべきことは「自然を造成する」のではなく、植生遷移の流れに沿って自然がゆっくり回復できるように補助してあげることです。そのためには多種多様な埋土種子を含んだ周辺の表土を撒き出したり、風散布や鳥散布で供給された種子が発芽·定着できる環境を整備する必要があります。

認定NPO法人瀬戸内オリーブ基金
「豊島·ゆたかなふるさと100年プロジェクト」
パンフレット『国立公園の原状回復事業植生回復の作業について』(2022年)より